ハードヘルス学ユニットについて
ハードヘルス学ユニットは、他の獣医系大学にはないユニークな研究室の一つとして、教育の国際化の趨勢に鑑み、応用獣医学系の衛生・環境学分野(2021年度より予防獣医学分野)の中に2008年度に開設されました。本ユニットの立ち上げには、生産動物医療学分野から専任教員として及川教授(内科学)と中田健准教授(臨床繁殖学、2009年度より教授)が参画し、2009年度には特任教授として末田洋一先生が在籍され、フィールド教育に尽力されました。その後、中田健教授は2016年度から生産動物医療学分野の動物生殖学ユニットに異動し、2017年度にはその後任として宇都宮大学農学部から福森理加講師(2021年度より准教授)が着任しました。
当ユニットにおいて、主として扱う対象動物は個体ではなく群(herd:ハード)であり、予防獣医学の見地から、生産性の維持および向上を図るための疾病制御や生産管理について、現場主義に基づいた活動を展開しています。単に獣医学的なアプローチに留まらず、広く畜産学や経済学あるいは社会学的な視点からの学際的な取り組みを志向していることから、総合的な応用獣医学分野と言えます。
研究テーマとして、
(1)乳牛群における周産期疾患の制御に関する研究
(2)乳牛群の健康管理のための環境モニタリングに関する研究
(3)乳牛群の代謝ホルモンおよび各種生理活性物質の臨床応用に関する研究
に取り組んでおり、研究課題を生産現場に求めています。
エクステンション活動としては、大学農場を含む石狩地区4つの酪農場において定期的に牛群健診を実施しているほか、道内の農業共済組合や農協と委託契約を結び、関連の農場における損耗防止対策としての牛群健診や飼養管理コンサルティングを展開しています。また、しばしば道外の酪農関係団体からの要請で牛群健診を実施しており、年間延べ約8,000頭の乳牛の健診を実施しています。
ハードヘルス学とは
ハードヘルス学とは、家畜の群・集団(herd)における健康(health)を科学する学問です。家畜を適正に飼養し、病気の発生を未然に防ぐことによって、群・集団の生産性を向上させることは獣医学の重要な目標の一つであり、まさにハードヘルス学の目指すところです。近年、家畜の飼養頭数は増加の一途を辿り、その飼養環境と疾病の発生が密接に関係していることが報告されています。飼養されている環境にはリスク要因が多く存在することから、最近のほとんどの疾病は単因子疾病から多因子疾病へと様相を変えて来ています。したがって、リスク要因を探し出し、その対策を講じることによって疾病を予防するという“予防獣医学”の概念が重要となります。
実際に現場において群・集団の健康を増進あるいは維持するためには、単に獣医学に基づいた実践だけでは十分と言えないことが多く、畜産関連学、経済学、倫理学、コーチング学等の学際的な知識が要求されます。その意味で目的を同一に持つ関連機関との連携は非常に重要であり有効です。
今後の展望
われわれの研究室では家畜として『乳牛(子牛から成牛)』に焦点を絞った研究やフィールドワークを展開しています。これまで、大学周辺の農場の他に、道内の各地さらには本州にも出向いて牛群健診を実施しています。そうした活動から新しい知見を得て、研究としてまとめながら普及書籍等も出版して来ました。特に、乳牛が生活する上での大切な5つの環境である「居住環境」、「採食環境(飼料分析を含む)」、「搾乳環境」、「歩行環境」、「人的環境」について、そこからのリスク要因と疾病発生との関係分析において何かしらのsomething newを探るべく取り組んでいます。また、実際の牛群の健康改善や経済性の向上に関してのフィールドワークも継続しています。“問題は机の上にはなく、現場にある”という真理を常に念頭に持って、今後も地道な活動を展開して行きたいと思っています。
進学を目指す方へ
群・集団の健康の管理やコントロールは現代社会において非常に要求度の高い重要な獣医療となっています。現場の課題解決に立脚した研究やフィールドワークはダイレクトに社会貢献につながりますので、かなりやりがいのある分野です。ハードヘルス学の研究室は日本の大学では本学にしかありませんが、北米や欧州では必須の研究領域です。日本の乳牛の6割は北海道で飼養されています。広大なフィールドで思う存分研究とフィールドワークを味わいたい“あなた”をお待ちしています。